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今日の気分(本文)

ななない物語

〔クロ〕

 黒く大きな翼はたたまれるとすうっと消えて見えなくなりました。今目の前にいるのはきれいなビロード色をしたふつうのねこです。でもよく見ると、いったいどこを通ってきたのか、枯れ葉のかけらや蜘蛛の巣をあちこちにくっつけているのでした。

「クロさん、背中の翼はどこへいってしまったのですか?」

僕は鼻をクンクンさせながらクロさんの方へ近づきました。すると、

「翼も実体ではないけれど、僕自身も実体ではないんだよ」

といって、鼻をすりつけたつもりの僕の体を、すうっとすり抜けたのでした。

「あれ? どうして? どうなっているの?」

僕はびっくりして全身の毛が逆立つのを感じました。クロさんはまぶしそうな眼で笑って、

「空飛びねこは自分の体が飛ぶのではなくて、心が飛んでいくんだよ」

「こころ?」

「そう。心の中にたくわえた風景が翼をくれて、それでそこへも、別のどこかへも、こうして飛んでいけるようになるんだよ」

「こころの中の風景? おじいさまの家とか? もうなくなってしまったけれど」

「なくなってしまったものは悲しいね、今から行ってもやっぱりないよ。でもそこには別の何かが新しくあるはずだから、いつか君も飛んでいったらいいさ」

「僕も飛べるようになるの?」

「君しだいさ」

 クロさんは長くてよく動くしっぽを右足のわきへ、左足のわきへと振りながら、僕がゆっくり理解するのを待ってくれていたようでした。それでも僕しだいで飛べるということは、わかったようなわからないような、ふしぎな心持ちでした。ふと思いついてクロさんにききました。

「クロさんはここへどんな風景を見に来られたのですか?」

「大きな地震だったからね、母親がどうしただろうかと思ったんだ」

「おかあさまに? あえました?」

「僕はこの先にあるお寺の軒下で生まれたんだ。ちいさなうちに人間にもらわれていって、母親とはそれきりだったんだけど、あの地震で急に母親を思い出してね」

「おかあさまを思い出す?」

「でも、もういなかった。よく似た僕より若いねこ、たぶん彼女は僕の妹だろうね。いやもしかすると姪かもしれない。君のお母さんは?」

「僕のおかあさん……」

もしかすると「特定のことを思い出す」ということをするのはこれが初めてだったのかもしれません。遠い記憶はもやがかかったようにふんわりと僕の脳裏にうかびました。

「ああ、おかあさん。あの柔らかいふわふわのお腹は」

でもそれ以上は口に出来ませんでした。最後に見た母親のお腹はごわごわしていて、それは僕の一番悲しいできごとだったからです。僕の顔はクロさんを困らせたようでした。

「いけないことを訊いてしまった? でもそのエネルギーが翼に変わるのだから、どうか目を背けないで心に納めておくんだよ」

「こころにおさめる?」

「君はこれからもいろいろなものを見て、聞いて、感じるだろう? それをそのままに過ぎ去らせずに心の中に蓄えていくといい。そうすればある日突然、君も空飛びねこになるよ」

「ほんとうに?」

「僕の声が聞こえて、僕の姿が見えたんだ。大丈夫だよ」

「にゃん」

「僕はもう戻らないと。今のママはとても心配性なんだ。僕がこんなふうに体にいろいろくっつけて帰ると、優しくふいてくれるんだ。だからってわざと変なところを通ったりしているわけではないよ。……いや、わざとかも。帰りたくなっちゃった」

 そういうとクロさんは長いしっぽをぴんとのばして、

「じゃあまたね。君も僕の心の風景に加わったから、いつかきっと会いに来るよ。それまでに君が空飛びねこになっていることを願って」

というと、黒く大きい翼を音もなくひろげ、ふわりと空へ浮かび、そのまま高く高く昇っていくのでした。

「ありがとうクロさん。僕は見て聞いて感じることを意識したことがありませんでした。教えてもらったからにはいっぱいこころにおさめていって、そうしていつか自分からあなたに逢いに行きたい。それまで、さようなら」

「さよなら」

 遠くなったクロさんの声は、あの雨のように優しく頭に降りそそぎ、いつまでも僕の耳にこだまするのでした。

コメント

nekonori-216 nekonori-216 2011/12/22 04:33

一気に書いたらつかれたにゃ。お腹も減ったにゃ。

anonymous 春月 2011/12/22 08:52

何時に起きてこんな大作書いているの?^^

nekonori-216 nekonori-216 2011/12/22 12:58

寒くなる前に起きる!なのさ。起きぬけストーリーを練ると寝るのを忘れるよ。

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