20120106(金) <<前日 | 翌日>>

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今日の気分(本文)

おはようななない
今日はちょっと悲しいお話

ななない物語

〔川〕

 橋のてまえで僕は立ち止まり、うしろをふりかえりました。
 いつもそうしているんです。
 僕にとって、橋を渡るたびに世界が変わります。今までいた世界にさよならする、そんなくせが僕にはあるんだなと思います。
 川の水が向こう側のにおいを流して行ってしまって、もうもとの道を辿れなくなるんです。自分の結界を持っている猫は、だからきっと橋は渡らない。川べりにもめったに近づかないはずです。

 10日ほど前のとても寒い日でした。僕は川べりにうずくまる猫にであいました。角から2件目の二階屋に住んでいるみかんさんです。

「おじさん、こんにちは。ひなたぼっこですか?」

「うん、そう。はああ」

「ここはもうすぐ寒くなりますけどお帰りにならないのですか?」

「うん? そうね。はああ」

よくみると、おじさんの茶虎の毛並みはいつもより白いように思われました。

「どこかお悪いんですか? すこし痩せられたのでは?」

「いや、歳なんだよ。もうそろそろ向こう岸に行こうかと思ってね」

「向こう岸へ? 戻れなくなるかもしれないという向こう岸へ? どうしてですか?」

「その向こう岸じゃなくて、ううんと、若い君には説明が難しいな。つまり寿命が近いということなんだが……」

「おじさん、死んでしまうの?」

「もうそれが近いと感じているんだ。橋を渡ってしまえば死に場所を見つけるだけなんだが、なかなか思い切れなくてね、ここでうずくまっている内にうとうとしてしまった」

「おうちに帰ろうよ」

「おいおい、俺はごめんだよ。ご主人達の悲しそうな顔を見ながら死ねというのかい? 俺の主義じゃあないね。だいたい飼い主不孝というものだろう?」

「考えたことがありませんでした。僕ならどうするだろう?」

「まだ先は長いんだ、君はもっと考えて悩むといいよ。俺はもう少しここで考えて、一度戻るか向こう岸に渡るか、日が落ちるまでに決めるさ」

「ここにいてはいけませんか?」

「わるいね、一人にしておくれ。お願いだ」

 僕はお別れに鼻キッスをしてその場を離れました。土手にあがると向こうからみかんさんを探すおばさんが見えました。

「みかんさん、ごめんなさい。僕はそれは悲しいと思います」

 僕はみかんさんのおばさんに聞こえるように、思い切り大きな声で、でも短く、鳴きました。みかんさんのマネです。そうしておいて、一目散に駆け出しました。

「みかんさん、ごめんなさい、ごめんなさい」

 小さく鳴きながら僕はおじいさまの座布団をめざしていました。
 みかんさんはどうしたろう?



「みかんさん」の本当の名前は「ころ」といいました
川べりで発見された彼は家に連れ帰られ、数日ののちに、有給休暇を取って一緒にいた私のひざで、明け方に息を引き取りました
川べりで静かに逝きたかった?
ごめんね

コメント

anonymous dragokuu 2012/01/06 05:27

こころが洗われる素敵なお話でした。
街に秋の雨が降るように心の中に涙が滴となって落ちる、
というヴァレリー・ラルボー(P・ヴェルレーヌではありません)の小説の一節を想起しました。
朝からありがとうございました。

nekonori-216 nekonori-216 2012/01/06 20:29

過分のお言葉をありがとうございます。ころは高校2年の秋に美術部の友人からもらいました。それから10年で亡くなるまで、楽しい思い出がいっぱいあります。命日の2月に先だって、思い出ポロポロです。

nekonori-216 nekonori-216 2012/01/07 04:46

高2の秋じゃないや。高2になる春だ。子猫のくせにスズランの芽を噛んでいて、もしかして毒じゃないの?って驚いてやめさせたのを思い出した。ころは葉っぱが好きで、こまつななんかしゃりしゃり食べてたよ。好き嫌い、へらそうね。

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