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今日の気分(本文)

『昆虫にとってコンビニとは何か』(高橋敬一/朝日新聞社/2006)は、現代社会の様々な様相が昆虫に与える影響について書かれた本だが、本書を読むと昆虫の生態だけでなく、昆虫マニアの生態についてもよくわかる。

例えばコンビニの灯りは夜行性の昆虫たち(ガ、コガネムシ、カメムシ、シロアリなど)を呼び寄せるが、昆虫マニアも引き寄せる。
その大半は甲虫マニアか蛾マニアだそう(蝶マニアが誘引されることはほとんどない)。

「蒸し暑い真夏の晩、通りがかりの山間部にコンビニを見つけた甲虫マニアやガマニアは、すぐさま反射的に駐車場へと車を滑り込ませる。<略>まずは指先でポケットに毒ビンが入っているのをそっと確かめ、それからできるだけ普通の客を装って車を降りる。そのとき、目はすでにコンビニの明かりの周囲をさまよっている。長い運転の疲れを癒すかのように肩をまわしてみたり深呼吸をしてみたりもするが、目だけは極度の集中力で探索を続けている。ふだんは目が悪くても、そのときだけはガラス上に動く二ミリ程度の虫でもだいたい何であるのかすぐに見当をつけ、そのなかでも良さそうな虫に向かってまっすぐに進んでいく。その虫を無事に毒ビンに収納すると、今度はガラスの前に仁王立ちになって、下から上までなめまわすように見つめ直す」(P36)

また糞虫マニア(そんなマニアがいるんです)は、
「せっせと犬糞を集めてはビニル袋に入れ、よく捏(こ)ねて冷蔵庫に保管し、週末になるとそれをあちこち人目につかない場所に置いて、糞虫がやってくるのを待つ。一年中これをやる。冬になってまでもやる(冬に出現する食糞性コガネムシもいるのだ)。そうしてやがて集まってくるであろう糞虫のことを夢に見ながら布団に入る」
らしい。

いやあ、私はつねづね、夫がゲームマニアであることを嘆いてきたが、昆虫マニア(とりわけ糞虫マニア)でなくて本当によかった。
冷蔵庫に犬の糞が保管されていたら卒倒するわ。
しかも週末ごとに犬の糞を配置するという作業に付き合わされてごらんなさい。
それでエンマコガネ(食糞性のコガネムシ)がわかなかったら、私の置いた場所が悪いだの、こね方が足りないだの、文句を言われるのだ。

著者は東南アジアの山間を流れる澄んだ川で(とはいえゴミも人間の便も流れてくるらしい)、ダルマガムシをルーペ片手に探しているが、それに付き合わされるのを想像しただけでウンザリする。
「ちゃんと探せ!」「真面目にやれ!」と叱咤されながら、興味もない虫ケラを探さなくちゃいけないなんて、本当にやってらんない!
(もっとも著者は独身だろうと思って読んでいたら、あとがきで「妻とともに害虫の調査に出かけることになった」と出てきてびっくりした。しかし奥さんも同業種の方のようだからよかった(著者は元々害虫防御の専門家))

こうツラツラ紹介すると、「そうはいっても、この著者はきっと昆虫や自然を大事にするエコロジストなのよ、心優しい方なのよ」と思う人もいるかもしれないが、著者は「『エコ』や『環境にやさしい』などという表現はあまりにもうさんくささにまみれていて、エコツーリズムという言葉を聞くだけでも、私は耳をふさぎたくなってくる」(P159)と言う。

「『エコ』あるいは『環境にやさしい』という言葉を使うとき、まるで人間と他の生物とが仲良く共存する、おとぎ話的世界が実現可能であるかのように思わせ」ているが、人間と昆虫の「共存」など(おカイコさんなど一部を除いて)、これまでもなかったし、今後もない。

だからまぁ、人間は一方的に昆虫を滅ぼしていく。
私たちの便利な生活、山を切り開き、宅地を造成し、人工的な公園をつくり、車や電車で移動する生活はガンガン昆虫を絶滅させていくのだ。知らない間に。
そういう生活は変えたくないんだから、昆虫が絶滅するのだって仕方ないよね?どうせ絶滅するんだから、全部死に絶える前に採集しておいたほうがいいじゃん?というのが著者のスタンスのようである。

著者は例えばオオムラサキとかホタルとかギフチョウとかを保護しようとする人を苦々しい思いで見ているようだ。
こういう自然保護を「ノスタルジック自然保護」と呼んでいる。自分の子供の頃の環境に対するノスタルジーを他人に押し付けているだけだというのだ。

自分自身を振りかえってみると、私の場合は「ノスタルジック自然保護」というより「ビジュアル重視自然保護」な気がする。
例えば、コアラが減っている(今月号のナショナルジオグラフィックの特集でやっていた)とかいうのを読むと、かわいそうでならないが、そこらのカメムシの一種が絶滅したと聞いても全くなんとも思わない。
カメムシというのは害虫(もちろん人間の目から見ての話である。より大きな視点でみれば、地球の一番の害虫は人間である)だから、むしろ「ざまぁ」と言いたいような気分なのだ。

おそろしい。種差別主義者といってもいいだろう。

なぜ、コアラやパンダやイルカは大事で、カメムシやタガメや蛾はどうでもいいのだろうか。
それはもう可愛くないからである。
はっきりいって、虫はキモいから、どうでもいいのだ。

虫の世界でいえば、コアラやパンダやイルカは、オオムラサキやギフチョウやホタルにあたるだろう。
こういう見た目が素晴らしく、存在感のある生き物が死に絶えるのは絶対にイヤなのだ。

これまた、人間として仕方のないことだ。

ま、もし私が昆虫だったとしたら、美しく立派なオオムラサキやヤンバルテナガコガネではなく、雑魚なカメムシだったであろうから複雑なところではある。
しかしカメムシ系女子は世の中が見た目重視のビジュアル偏重社会であることをよく知っている。
(これはもう、大昔からで、天孫瓊々杵尊に、美人薄命のコノハナノサクヤビメと抱き合わせ販売で嫁いだブサイクながら頑丈なイワナガヒメは、よほどブサイクだったのか父の元に送り返されてしまう。
ニニギ的にイワナガヒメは、ある種の昆虫のように「生理的に受け付けない」ビジュアルだったんだろう。
いつの時代でも皆、美しくてはかないものが大好きだ。
美しく愛らしいコノハナノサクヤビメ的な存在が死に絶えかけると、上へ下への大騒ぎとなるが、ブサイクでキモいイワナガヒメ的存在が死にかけても「ああ、あいつならゴキブリ並の生命力だからだいじょぶだよ」でほっとかれるのだ)

それこそ著者が連発する「仕方ない」としかいいようがないものなのだろう。

コメント

konton konton 2012/06/02 03:33

はじめまして。
昆虫にとってコンビニとは何か?で検索してたどり着きました。
いいですね、本音が出ているこの感想。
この本の虫好きではない人の感想が知りたかったんです。

>そこらのカメムシの一種が絶滅したと聞いても全くなんとも思わない。
>カメムシというのは害虫だから、むしろ「ざまぁ」と言いたいような気分なのだ。

こんな気持ち、私にはまったく想像できませんでした。
(カメムシは必ずしも害虫ではないですけどね。
それとカメムシも種によっては美しいですよ。
臭いにおいもほとんど出さないのもいるし。
いろいろ種類がいてけっこう面白いのです)

ここにコメントを残したくて、登録してしまいました。
さらに、私のページからリンクも張りました。
http://konton.cside.com/index.php?%E6%98%86%E8%99%AB%E3%81%AB%E3%81%A8%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%93%E3%83%8B%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B%EF%BC%9F
↑まるでスパムか何かのようですが、違います(笑)。

pyaaa pyaaa 2012/06/02 11:48

混沌さん、ご丁寧にコメントいただきありがとうございます。
ブログも拝読いたしました。

>カメムシは必ずしも害虫ではないですけどね。
>それとカメムシも種によっては美しいですよ
色々、すみません><。
高橋さんも「ハレギカスミカメ」を巻頭カラー写真で紹介なさって「もっとも美しい種のひとつ」とお書きになっていますね。「ハレギ」というのは「晴れ着」でしょうかね。確かに黄色の紅型のような色合いの羽できれいですが、ペットにしたくはありませんね><。

混沌さんのブログから感想を引用させていただきますが、
「毒をもった本だと思う。万人向けではまったくないが、だからこそ多くのヒトに一度は読んでみてほしいとも思う。虫好きはもちろん、虫嫌いもだ。読む前後で、必ずや視点が変わると思う」(引用終わり)
は、まさにそうですね。

確かに「毒を持っている」んです。著者の高橋さんってなんかひねているんです(笑)。ひねているっていうのは一般的には良くないことのようにおもわれていますが、常識とは違った視座を提供してくれているってことでもあります。実際、あちこちで虫を採って&撮ってきた人だから机上の論ではなく、言葉に重みがありますね。

小笠原のミナミナガカメムシが「レッドデータブック」の準絶滅危惧種に指定されているそうだけど、「外来種なんじゃないか」っていう著者の推測が書かれていましたが、面白かったですね。私みたいな普通の人は「レッドデータブックの指定種」で脊髄反射してしまいます。
でもじゃあ、稀少でも外来種ならほっておいてもいいのか。もともといないのが当たり前なんだから、その場で絶滅してもいいのか、という問いも出てきます。
実際、外来種の悪影響が取りざたされていますが、きっと高橋さんなら世間とは違う視座を提供してくれるでしょう。
ま、私は「外来種だから死んでもいいんです」っておもっちゃうんだけれども、この私の発想も偏った見方なんじゃないかっていう気がします。

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